為替変動リスクのヘッジについて


「無リスク金利について」 の記事で、通貨オプションのコール買いとプット売りを組み合わせることで、 「米国債10年物 為替ヘッジなし」 に投資しているのと同等のポジションを複製できることを説明しました。この複製ポートフォリオはドル建てのため、当然ながら為替レートの変動リスクが伴います。そこで為替変動リスクのヘッジを行うのですが、まず下記のリンクを参照して下さい。

為替リスクほぼゼロで外貨投資できる不思議な現象
米国債を購入し為替予約しても元本割れリスクはある


まず、1ヶ月の為替予約を期限到来する毎に乗り換える 「ローリングヘッジ」 を行った場合で検証します。
ヘッジ対象となるポートフォリオは 「決済日時が2019年1月17日のドル買いの為替予約」 と同等のものとみなし、フォワードレートから金利差を逆算したところ 「2.99%」 と算出されました。

(参考)

日本国債10年物 「0.12%」
米国債10年物 「3.06%」
二国間の金利差 「2.94%」

LIBOR 3ヶ月物 「2.39%」
LIBOR 12ヶ月物 「2.92%」

満期までの期間が約110日しかないのにもかかわらず、10年物国債と同等の金利差を織り込んでプライシングされていることが確認できます。
通貨オプション戦略のシステムでは利便性を考慮して、円金利を 「0%」、主軸通貨金利を 「2.99%」 と設定しました。
このポートフォリオの為替変動リスクをヘッジするために、ドル売りの先物予約 (1ヶ月) を行います。
フォワードレートは 「113.254/113.289」 と提示されていましたが、金利差を逆算したところ 「2.36%」 と算出されました。
この金利を用いて満期日までに必要なヘッジコストを計算したところ 「2,719円(35.04日間)+2,716円(35日間)+3,078円(40日間)=8,513円」 となりましたので、未実現スワップとして値を入力しました。
スポットレートの変動に対しては為替予約でヘッジされているため、原資産をスポットレートで売却してしまったとみなして値を入力しました。実際は決済日に為替予約がスポットに転じた後に決済を行い、再び為替予約を行う必要があるためスポット売買のスプレッドコストを負担する必要がありますが、非常に小さいため無視しました。
セータがプラスである以外はすべてのリスクがヘッジされているように見えますが、実際は2回目と3回目の為替予約を行う際の金利状況によってはヘッジコストが変わってくる可能性があります。だだし、為替予約を行っている間の評価損益に対する金利の影響はポートフォリオと為替予約で相殺されます。
評価損益は最初 「-10,503円(通貨オプションのスプレッド 1,990円+為替予約の想定コスト 8,513円)」 であるのに対して、満期時損益は 「687円」 となっており、通貨オプションのスプレッドコストである「-1,000円」を考慮 (満期まで持ち込んで清算すると反対売買で決済する場合の半分で済む) すると 「1,687円」 の利益を生み出したことになります。これはポートフォリオに織り込まれている金利とヘッジコストの元となる金利の差から生まれるものです。
金利差から発生する利益から3回の為替予約で発生するスプレッドコストを引くと、
113.526×10,000×(2.99-2.36)÷100÷365×110-(350÷2×3)=1,630円
となり、ほぼ一致 (誤差57円) しています。
為替予約を行う際のヘッジコストは二国間の金利差と外国為替 (スポット) レートに左右されるため、「二国間の(短期)金利差の拡大・為替レートの上昇」 は、ヘッジコストの増大というリスクをもたらします。
長期のポートフォリオをローリングヘッジしながら運用する場合、場合によっては長期と短期の金利が逆転することで逆鞘となる可能性もあります。
しかし、今回のように満期まで数ヶ月程度の通貨オプションであれば、期間中に逆鞘になるリスクは限りなく小さいため、実質利回りが低下することはあっても、大きな損失につながる可能性は低いでしょう。
ただし、為替予約の繰り延べを上手く行う必要があるため、その都度オペレーションリスクが伴います。


為替変動リスクをヘッジする方法として、為替予約ではなくスポットFXでヘッジする方法もあります。
為替予約でヘッジを行う場合との違いとしては、

① 為替予約よりも低いコスト (日々の支払いスワップ) でヘッジ可能で、売買スプレッドが狭いためヘッジコストを低く抑えることができる。
② 為替予約と違いローリングの必要がないため、オペレーションリスクを最小限にすることが出来る。
③ 通貨オプション取引の口座と別の口座でスポットFXのポジションを建てる場合、証拠金が余分に必要となり資金配分やロスカットに注意する必要がある。
④ 為替予約でヘッジした場合と同様に 「二国間の(短期)金利差の拡大・為替レートの上昇」 はヘッジコストの増大をもたらす。
⑤ 「二国間の(長期)金利差の拡大」 はポートフォリオの評価損益を悪化させる。(満期時損益には影響しない。)

2018年9月29日現在 「セントラル短資FX」 における売りスワップが 「-55円」 とヘッジコストの面で最も有利でした。

FXダイレクトプラス
売りスワップが変化しないと想定した場合、「55円×110日=6,050円」 で済むことになります。 為替予約でヘッジした場合と比較してコストが 「2,463円」 削減できることになり、満期時損益は「3,150円」となります。スポット売買のスプレッドコストは為替予約でヘッジした場合と同様に無視しました。

次に、ポジションを維持するために必要な資金から実質利回りを計算してみます。



為替予約でヘッジを行った場合


満期時損益 687円

コールオプションの買いを行うために必要な資金 15,480円 (プレミアム代金)
プットオプションの売りを行うために必要な資金 45,410円 (必要証拠金 113.526×10,000÷25)
フォワードFXのポジションを建てるための必要証拠金 45,410円

必要な資金は合計で 「106,300円」 ですが、11万円とすると
実質利回りは 「0.62%」 になりました。最低でも年3回は実施できますので 「年利1.86%」 で運用できることになります。




スポットFXでヘッジを行った場合


満期時損益 3,150円

コールオプションの買いを行うために必要な資金 15,480円 (プレミアム代金)
プットオプションの売りを行うために必要な資金 45,410円 (必要証拠金 113.526×10,000÷25)
通貨オプション取引口座のロスカットを防止するために余分に預ける証拠金 50,000円

スポットFXのポジションを建てるための必要証拠金 45,410円
スポットFX取引口座のロスカットを防止するために余分に預ける証拠金 50,000円

必要な資金は合計で 「206,300円」 ですが、21万円とすると
実質利回りは 「1.5%」 になりました。最低でも年3回は実施できますので 「年利4.5%」 で運用できることになります。

運用資金を 「年利3.0%」 で借入したとしても、「年利1.5%」 の鞘を抜くことが可能です。
通貨オプション取引とスポットFXの取引は別々の業者で行うことを前提としており、レート変動の許容範囲を上下5円としています。
途中で片側の口座がロスカットしそうになった場合、運用を継続するには資金移動を行ってポジションを守る必要があります。
なお、レート変動の許容範囲を広げれば(リスクを低くする)、利回りは低下します。

(参考)
レート変動の許容範囲 上下10円
必要な資金 31万円
実質利回り 「1.0%」、「年利3.0%」

上記の計算ではオプションの売りに伴うプレミアムの受取りは考慮していませんが、実際には有効証拠金にプラスされることになるためオプション取引口座におけるレート変動の許容範囲はその分だけ広くなります。逆にレート変動の許容範囲を同じにする場合は準備する証拠金を減らすことが可能なため、利回りが若干上がります。権利行使価格の選択具合によっては劇的な効果を得ることができます。



要点


為替予約とスポットFXのどちらでヘッジを行うべきかは、各個人の考え方や取引環境に左右されるため一概には言えません。
だだし、どちらの方法を採用するにしても、リスクを最小限に抑えながら更なる利益の積み増しを狙う方法があります。

2019年3月28日追記
サクソバンク証券のフォワードFXのサービスが2019年3月13日を持って廃止になったため、為替予約でヘッジするメリットはなくなりました。スワップで一番有利な条件を提供している業者を使用してスポットFXによるヘッジを行うことが最も効果的でしょう。



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