無リスク金利について


通貨オプションをはじめとするデリバティブの価格を決定する要素の一つに金利があります。
具体的には、通貨オプションの 「ドル円」 を例にすると主軸通貨であるドルの金利と決済通貨である円の金利差が影響します。
これは、デリバティブを考えるときのもっとも根本的な思想としての 「将来のキャッシュフローを現在価値にディスカウントする」 というものから来るもので、通貨オプションに関わる計算を行う場合には主軸通貨と決済通貨の無リスク金利を設定する必要があります。詳しくは下記のリンクを参照して下さい。
 

佐藤茂のときどき真面目な金融日記    デリバティブの基礎の基礎



無リスク金利に関しては投資期間に対応した年限に相当する国債の利回りを使うのが理想ですが、実務上は円については日本国債10年物の利回りが用いられ、ドルについては米国債10年物の利回りが用いられることが多くあります。
LIBORが用いられることもありますが、LIBORはインターバンク市場の無担保取引金利の水準を表しますので、理論的にはリスクフリーの国債利回りに参加金融機関の信用スプレッドが上乗せされたレートとなります。
それでは、ツールに数値を設定して実際に確認してみましょう。
金利の影響は満期までの期間が長いほど影響が大きくなるため、取引可能な満期日が一番遠い (権利行使価格がATM付近の) オプションを用いて検討しました。



「USD/JPY」 で 「2018年8月28日 15:02」 に検討した例

① 日本国債10年物の利回り 「0.099%」 を円金利に、米国債10年物の利回り 「2.85%」 を主軸通貨金利に設定。
② 評価日時はオプションボードのスクリーンショットに合わせて 「2018/8/28 15:02」 に設定。
③ オプションの満期日はNYオプションカットの時刻を日本の日時で入力。今回は満期日が冬時間のため、 「2019/1/16」 に24時間足して 「2019/1/17」 に設定。
④ 通貨オプション設定の 「アスクとビッドの差」 はコール側 (0.104) とプット側 (0.105) でほぼ同じ。今回は 「0.105」 で設定。


オプションプレミアムを比較してみると

コール買いの決済 (売却) 可能レートはオプションボードで 「1.534」 に対して計算値は 「1.528」 となっており、誤差は 「0.006」 (1万通貨当たり60円)。
プット売りの決済 (買戻) 可能レートはオプションボードで 「2.555」 に対して計算値は 「2.562」 となっており、誤差は 「0.007」 (1万通貨当たり70円)。
となりました。

グリークスを比較してみると

コール買いのセータはオプションボードで 「-35」 に対して計算値は 「-34」 となっており、誤差は 「1」。
プット売りのセータはオプションボードで 「116」 (売りのため符号は逆転させた) に対して計算値は 「117」 となっており、誤差は 「1」。
セータの合計としてはオプションボードで 「116-35=81」、計算値で 「117-34=83」 となっており、誤差は 「2」。
ベガに関してはオプションボードと計算値に誤差はありませんでした。
デルタとガンマに若干の誤差が見られますが、今回の検証に大きな影響はありません。
プレミアムやグリークスは 「The Options Industry Council」 の 「Options calculator」 で確認することも可能です。



次に主軸通貨金利をFFレートの 「2.0%」 に変えてみました。
オプションプレミアムはオプションボードに表示されているプライスとはかけ離れた値となり、セータの合計も 「102-44=58」 に変化してしまいました。
このことから主軸通貨金利を 「2.85%」 と設定したことに大きな間違いはなかったと推測できます。
ただし、満期までの期間が1ヶ月以内の銘柄を選択した場合は短期国債の利回りを採用しないと誤差が大きくなります。満期までの期間が1ヶ月より長い銘柄であれば米国債10年物の利回りを採用したとしても誤差はわずかとなります。


それではセータ 「83」 と 「58」 の持つ意味を考えてみましょう。

111.25×10,000×(2.85-0.099)÷100÷365=83.8円
111.25×10,000×(2.00-0.099)÷100÷365=57.9円

となり、米ドルと円の金利差から得られる利息の (為替レートが 「111.25」 から変化しないと仮定) 1日当たりの額とほぼ一致することが分かります。

主軸通貨金利を 「2.85%」 に戻して、満期日の直前まで日付を進めてみましょう。
オフセット日数のセルに 「141」 と入力し評価日を 「2019/1/16」 としたところ、当初はスプレッド分のコストに近い「-2,220円」の評価損益だったものが 「9,540円」 に変化しました。11,760円だけグラフが上にシフトしたことが分かります。

これは利息の141日分

111.25×10,000×(2.85-0.099)÷100÷365×141=11,822円

とほぼ一致 (誤差はわずか62円) します。
また、評価日を1日ずつ進めてみた場合、セータの値はほとんど変化しないまま 「83円/円」 のペースでグラフが上にシフトしていくことが確認できます。

評価損益は141日間の利息である 「11,822円」 から通貨オプションの買いと売りの2つのポジションを建てた際の未確定コストである 「2,220円」 を引いた 「9,602円」 とぼぼ一致しています。
満期時の損益は 「10,620円」 と算出されていますが、これは141日間の利息収入である 「11,822円」 から 「2,220円」 の半分である「1,110円」を引いた 「10,712円」 とぼぼ一致しています。
これはオプションのポジションを建てる際と決済する際はプレミアムの理論値 (MID値) より不利なレートで取引を行う必要があるのに対して、満期まで持ち越して清算する場合は満期時の本質的価値に応じた差金決済が行われるためです。コスト面だけで言えば、満期まで持ち越したほうが得と言えます。

次に満期までの間に米ドルと円の金利差に変化が生じた場合の影響を検証してみます。
まず、開始から50日経過した 「10/17」 時点では下記のグラフのような状態でした。
「-2,220円」の評価損益だったものが 「1,940円」 に変化しました。4,160円だけグラフが上にシフトしたことが分かります。
次に米国債10年物の利回りが 「0.15%」 上昇して 「3.0%」 になったと仮定し、主軸通貨金利を 「3.0%」 に変更したところ下記のようなグラフになりました。
「1,940円」 の評価損益だったものが 「1,520円」 に変化しました。420円だけグラフが下にシフトしてしまいました。
しかし、長期金利が上がった影響でセータが 「83」 から 「88」 に変化しています。満期時の損益については 「10,620円」 から変化していません。
評価日を1日ずつ進めて見ると分かりますが、前より早いペースでグラフが上にシフトしていき、満期当日には主軸通貨金利が 「2.85%」 の時と同じ 「9,540円」 に到達することが確認できます。
反対に長期金利が下がった場合は一時的に評価損益は上にシフトしますが (セータは小さくなる) 、満期当日のグラフは同じ状態になります。
途中、長期金利が変化することで評価損益に変動が生じるものの、満期まで保有することを前提とすればポジション構築時の日米金利差 「2.751%」 にあたる 「11,760円」 のグラフ押し上げ効果は保障されていることになり、元本割れとなる円高水準は開始時の水準である 「111.25」 から 利息分の 「1.176」 引いて、通貨オプションの取引コストの 「0.105」 を足した 「110.179」 となります。

以上のことから、今回紹介したポジションは 「米国債10年物 為替ヘッジなし」 に投資しているのと同等の性質を持つことが分かります。
一般的な外貨定期預金よりも高い金利が得られ、運用資金に関してはレバレッジを効かせることで米国債を直接購入するときよりも効率的に活用することができます。
具体的に言うと 「サクソバンク証券」 の場合は

① オプションの売りポジションを建てるための証拠金 111.25×10,000×4%=44,500円
② ロスカットを防止するために余分に預ける証拠金

実際には上記に加え、オプションの買いを行うためにプレミアムの支払いが必要となりますが、オプションの売りに伴うプレミアムの受取りも発生します。権利行使価格の選択具合によって支払いと受取りの額は変化しますので有効証拠金に影響を及ぼすことになりますが、下記の計算では省略しています。

パターンA
元本  ①+②60,000円=104,500円
利息  10,620円
利回り 10.16%

パターンB
元本  ①+②100,000円=144,500円
利息  10,620円
利回り 7.35%

となり、資金配分を調整することで利回りを変化させることが可能です。
しかし、「実質利回り」 を上げるには有効レバレッジを上げる必要があり、為替変動リスクを高めてしまうことになります。
「為替変動リスクのヘッジ」 については別の記事で詳しく解説します。
外貨預金と外国債券の比較については下記のリンクを参照して下さい。


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